ロケット団はもういらない。ポケモンの最新映画を見てきた話

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昨日数年ぶりにポケモンの映画「ポケットモンスターみんなの物語」を観て来ました。前回がマサラタウンの焼き直しということもあり、今回も偶像劇風と今までの作風と違うのが気になっていたのだけれど、やっぱり割と面白かったです。

www.pokemon-movie.jp

この記事をまさか子供が読むとは思えないので、親御さん世代に、こんな風に観たら面白いかもよ、ということでレビューをネタバレありで書いてみようと思います。

「正義VS悪モデル」から「悪不在の群像劇モデル」へ

ぼくが見ていたポケモンの映画って、映画館に通っていたのが「裂空の訪問者 デオキシス」までで、むしろ一番はまってたのは「セレビィ 時を超えた遭遇」とかその辺りなんですよね。

で、これまでの映画の構図って、基本的にロケット団なんて可愛いくらいの悪役が出てきて、そいつが幻のポケモンを悪用しようとする。そしてこれをサトシ一同が頑張って阻止するっていう、「正義VS悪」の構図だったと思うんです。

でもこの構図は必ず、悪役VSサトシと幻のポケモンという2項対立の元に成り立ちます。正義が複数立ち上がるなんてことは、話が複雑になるので基本的にありません。

でも今回は「みんなの物語」ですから、サトシ以外のメンバーも主役級として立ち上がる必要があります。結果今回のストーリーは明確な悪役が出てきません。

つまり「正義VS悪」の構図を捨てることで、「みんなの物語」、言い換えれば「悪不在の群像劇」を作っているのです。

絶対的な悪がいないので、起きる事件はコメディ的な悪意のない事象の連鎖によって引き起こされます。しかも、登場人物を増やしすぎると厄介なので、この悪意のない事象を引き起こすのは、あろうことか主人公たち自身です。

つまり今回、基本的な構図として、自分たちで巻いた種を自分たちで乗り切る話になっているわけです。そしてその過程で、それぞれが抱えている傷や壁をポケモン、及びその周辺の仲間たちの力を借りて乗り越える、そんなストーリーになっています。

ロケット団はもういらない?

ここで1つ重要なポイントがあります。それがロケット団の存在です。

皆さんご存知ロケット団は、サトシとピカチュウに続き、唯一初期シリーズから一貫して登場している悪役です。ヤッターマンでいうドロンジョたち、ドラえもんでいうとジャイアンスネ夫的ポジションですね。

これまでの映画では、ロケット団は映画版ジャイアンとも言うべき、「映画だけいいヤツ」でした。しかし実際は、映画初期においては悪役と行動をともにし、大体ついていけなくなり(もしくは見捨てられ)、今回だけはとサトシたち側にまわる、という構図をとっています。

ここでロケット団は悪から正義へ移行していくわけですが、この存在が映画のシリアス度を調整するのに役立っています。最初はコメディ風に悪事を働かせ、一度は心をいれかえるシーンでは少し空気を引き締める。そして最後に「いい感じー」と言いながら終わるシーンでは、改めてくすっと笑わせる。そんな役割を担っていました。

しかし今回、ロケット団は明確な悪役としても登場できません。ロケット団を超える悪役は存在しないし、放っておいても問題は勝手に起こっていきます。今回のストーリーでロケット団が出来ることは、問題を増幅させることくらいです。

でもここでロケット団を絶対悪に設定してしまうと、今後のアニメに支障が出る。でも正義側に移行させようにもその理由がない。しかも無理やり移行させてしまえば、群像劇のキャラが増えすぎてまとまらない。

結果今回の映画ではロケット団は、ただの賑やかしキャラに終始しており、ほぼ存在意義のないキャラと化していました。今後この形式で映画を作るのであれば、ロケット団はもういらない、のかもしれません。

「嘘をついて何かを守るということ」と「その代償」

最後にもう一つ。ここはさすがに真相は書きませんが、今回「嘘」が1つのキーワードになってきます。

主要メンバーの一人「カガチ」はホラ吹き男という設定。姪を喜ばせるために、嘘をつきまくり「格好いいおじさん」の地位を守っています。しかし途中カガチが嘘をついていたことが姪にバレてしまい、関係が悪化。姪に嫌いとまで言われたカガチは「嘘ばっかついていると癖になる」と落ち込みます。

彼は嘘をつくことで、自分のイメージを守っていて、その嘘がバレたことでイメージを失っていきました。その後、彼は復活して関係は修復しますが、ここでのポイントは「嘘をついて何かを守っていた」ということです。

実はこれと同じ構図が、この街全体で起きています。街自体が1つ嘘をついていて、それによって守られていたものがあります。一方で、嘘をついていたことで失われたものも確実に存在し、そのトレードオフが物語最後の肝になってきます。

さていかがでしたでしょうか。 そんなにネタバレせずに書くことが出来た気がします。もう少し分かりやすく書けるように日々精進しますが、今回はここまで。 割と大人も楽しめるストーリーだったと思うので、ぜひお子さんと一緒に見に行ってみてください。それでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました。